2010年3月3日水曜日

★ 世界同時デフレ:「デフレ」と「国際化」:山田伸二


● 1998/03



 私は今の経済をみるキーワードとして「デフレ」と「国際化(註:グローバル化)」を挙げたいと思う。
 今の経済はこんな風に整理できる。

 まず国内経済を考える場合、「バブル」と「バブル崩壊」が鍵になる。
 「バブル崩壊」とは太りすぎて病気になったようなもので、病人はダイエットする必要があるし、大いに運動をしないといけない。
 健全な体に戻すためには色々我慢する必要があるというわけである。
 経済でいえば企業はリストラとか合理化で身を引き締め、身を縮めようとする。
 また、痛んだ金融システムの手当てをするために、銀行は不良債権の償却だとか、融資の見通しを進めることになる。
 この結果、経済はどうしても「小さくなろう」という方向に向かい、「デフレ」という動きになってくる。

 一方、世界経済はこうなる。
 1989年の冷戦の終結をきっかけに、東の陣営が政府主導による「社会主義経済」から、西の「市場主義経済」に移ってきた。
 お風呂でいうと熱いお湯とぬるいお湯が仕切り版で隔てられていたのが、その仕切りを取り払ったようなもので、私たちのお湯もどんどんぬるくなっていく。
 経済でいえば、人件費の安い東の国から安い商品がどんどん西の国に、そして、日本にも入ってくる。
 この結果、物価を下げ、名目の経済成長率を引き差フェる方向に働き、内からだけでなく外国からもデフレ圧力を受ける構図になってきている。

 しかも、経済が「国際化」する中で、お金が世界を駆け巡り、お金の世界は一つになって、世界各国はいまやお互いに抜き差しならぬ関係になっている。
 この過程で世界的な「金余り」が生じ、これが各地でバブルを引き起こし、そしてバブル崩壊を招いた。
 アジアの通貨危機は、こうした動きの典型である。
 バブルが崩壊した地域では、日本と同じように大変な調整圧力、デフレ圧力を生じ、そして、これが再び世界に跳ね返っていく、というわけである。
 キーワードが「デフレ」と「国際化」だといったのはこういう意味である。 

 今回の国際金融の混乱は、一言でいうと、お金の世界が一つになって、これを通して各国でいわゆるバブルが起き、そして破裂したということだ。
 皮肉なことに、この混乱を招いたのはアメリカ経済が立ち直ったためだ。
 1980年代にアメリカは貿易と財政の双子の赤字に苦しんだ。
 国内の貯蓄率が低かったので、双子の赤字の帳尻を合わせるためには外国からの資金に頼らなければならなかった。
 そこで、日本やヨーロッパから大量の資金がアメリカに流れこんで、アメリカ国債を買った。
 1990年代になって、アメリカ経済はハイテク産業をテコに立ち直った。
 が、過剰消費と消費物資を輸入に依存する体質は変わっていないから、貿易赤字は実額では依然として高い水準にあるが、GDPに対する比率は大幅に低下している。
 ために、双子の赤字ファイナンス、帳尻あわせのために、いままでのように外国からたくさんの資金を集める必要はなくなっている。

 ところが、実際には、アメリカは磁石のように世界中からお金を吸い寄せている。
 こうした資金流入がアメリカの金利を低下させ、好調な経済の原動力のなっているというわけである。
 が、アメリカ国内でその資金をさばききれなくなる。
 そこで顕著になったのはアメリカからの資金の流失だった。
 従来なら投資の対象にならなかった東ヨーロッパやアフリカ、そして本来のヨーロッパ、経済が好調のアジアと投資対象が広がっている。
 こうした資金が入った国の経済はますます活性化して「世界同時株高」となり、ここで生まれた余剰資金が再びアメリカに戻り、資金が流れるにつれてお互いの経済が拡大するという願ってもない好循環のメカニズムが働いた。

 しかし、うまい話には落とし穴がある。
 使い切れないほどのお金を手にした結果、バブルを生んでしまったのだ。
 アジアの場合、あまりに成長が早かったために、経済だけでなく政治や社会も変化についてゆけず、通貨危機という形で問題が表面化したわけである。





 【習文:目次】 



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