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● 2009/02
『
民放にしろ、NHKにしろ、番組のネットへの同時送信は、当面は無理な状況だ。
通信サイドの人たちは、インターネットを取り巻くインフラが、万全ではないことを知っているからだ。
プロローグで紹介したように、ネット上の情報量はこの10年間で1万5千倍に膨れ上がり、日本で流通する情報量は530倍にもなっている。
しかも、一日の時間帯による差異が激しい。
総務省のデータによると、平日一日のピーク時間帯は午後9時から11時で、最も利用が少ないときの時間帯に比べて情報量は2.5倍もの開きがある。
この調子で推移すれば、むこう数年で日本のネットのインフラはパンクするおそれが強いのだ。
パンクとはラフな表現だが、平日の午後9時から11時にかけて、文字や動画のコンテツの伝送は渋滞を起こし、届くのに時間がかかったり、ネットへの接続自体ができなくなることが予想される。
さらに、電力消費量の問題もある。
経済産業省の試算では、パソコン、サーバー、ルーターなどのネット関連機器を使用することによる日本国内の消費電力は2006年で全消費電力の約5%にあたる。
このままネットの使用が急増していくと、2025年には約20%に以上になると見込まれる。
これを原子力発電所の増設でまかなうとすると、22基(1基100万kwの原発に換算)が必要になるという計算だという。
一連のデータは、虚仮おどしではない。
総務省はこうした状況を危惧し、2008年2月にインターネット政策懇談会を設置した。
どうしたらパンク状態に陥るのを防げるのか、あるいはヘビーユーザーもライトユーザーも一律定額制になっている利用者のコスト負担をどう改めていくか、などについて議論している。
長年、光ファイバーの技術開発に携わってきた、この分野での日本におけるリーダーのひとりである島田禎くに氏は、
「
高速・大容量の光ファイバーの技術は、まだ開発の余地がある。
しかし、ネットでの情報の爆発の方がはるかにピッチが速い。
光ファイバー網をいくら拡充してもおいつかないだろう。
それに、これ以上の光ファイバーへの投資は、経済コストの面からも無理だろう。
日本だけでなく、世界に共通していえることだが、ネットに制限を加えなければ、極めて深刻な事態に陥るだろう。
」
と、警告する。
例えば、2008年8月の北京五輪の開会式。
日本ではざっと5千万人がテレビで生中継を見ていたという。
もしこれが仮にパソコンでも生中継で視聴できたとすると、「おそらく、ネットはパンクしていただろう」と推測するIT技術者は多い。
あの開会式は、ネット利用のピーク時間帯である、午後9時から11時にかかっていたからだ。
サイバーテロの危険性も、払拭できない。
ウエブ上のコンテンツに横槍を入れて番組をいじりまわすとか、番組そのものを消去させてしまう輩が出てくる可能性がある。
現状ではそれを防御する技術は確立されていない。
完全と思われる防御技術を開発しても、ネットの世界ではそれを身上とする人間がいるのだ。
両者のイタチゴッコが続くことであろう。
こういう状況では、テレビの番組を同時にインターネットに流すことは、避けたほうが得策であろう。
多くの人に瞬時に動画映像を送り届けることについては、現状のIT環境ではインターネットよりテレビのほうがはるかに優れている、と断言していいであろう。
』
【習文:目次】
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