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● 2006/09
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現在の日本では、働かなければ餓え死にしてしまうようなことはなくなった。
貧しい国のストリートチルドレンの映像を見ると、本当に飢えに直面しているから、世の中や将来について諦めていて、働かざるをえないということがあるだろう。
しかし、この豊かなこの国でも、将来をあきらめている人たちは、勉強しないし、働かないし、努力しない社会になってきている。
「どうせ報われないのだ」と諦めている人が大勢になれば、国全体としてはかなり大きなダメージになることはさけられないだろう。
フリーターやニートの問題にしても、「こんな人たちも出てきたんだ」と見るか、「人口のある割合に達すると、国にかなりのダメージを与える」とみるかによって、意味合いが違ってくる。
「社会的ひきこもり」と言われている人は、多めに見積もると100万人程度と見られている。
ニートは厚生労働省の2004年の発表で64万人、内閣府調査では2002年に85万人。
フリーターは厚生労働省では2005年で201万人、内閣府では2001年で417万人と、かなり大きな数字になってきている。
人々にやる気をおこさせるにはどうしたらいいだろうか?
格差を明確に大きなものにすることがやる気を促す、という議論があるが本当にそうだろうか?
心理学の「動機づけ理論」では、「やってもどうせ勉強はできない」という「学習性無力感」というものがある。
教育心理学の理論では、目標設定に際しては、できそうな目標を提示することが重要だと言われている。
たとえば、いつもテストで60点の子どもに勉強させようというとき、「90点とったらハワイ旅行に連れて行っていってあげる」という場合と、「65点取っ たらマンガの本を買ってあげる」という場合では、大半の子どもは目標達成可能な65点に向かってはがんばるが、90点にかけるのはひじょうに僅かだという ことがわかっている。
「内発的動機」とは、人間が本来持っている興味や、やる気を刺激して行動を起こすことで、たとえば仕事が楽しくて働いている人は職場も楽しくて長続きするといったことだ。
これに対して、成果に対する評価や報酬、あるいは称賛や罰則など外側からの刺激によって意欲を引き出すことを「外発的刺激」という。
内発的動機論が注目されるようになった1960年代の後半から1980年代のアメリカで、子どもは本来、べんきょうができるようになりたがっている、好奇 心旺盛で学ぶことを楽しんでいる、だからやる気になっている子や好奇心のある子に下手に賞罰を与えるとかえって気を削いでしまい、勉強ギライになってしま うと考えられた。
そこで、子どもには賞罰を与えない、試験の結果は公表しない、宿題も出さないという方針がとられた。
ところがこの結果起こったのは深刻な学力低下だった。
勉強に関してもともと意欲のない子どものほうが、意欲を持っていた子どもより、はるかに多かったのである。
1割~2割の子どもの学力を、その教育方法によって伸ばしたとしても、8割~9割の子どもの学力が下がってしまったのでは、全体のレベルは落ちてしまうことになる。
心理学者は「人の行動のメカニズムはわかっている」とおもいがちだが、心理学では一人ひとりにいろいろな動機がある。
だから心理学では、原則的に個人の経験を一般化することに非常に慎重になる。
もちろん、そういう勝手な思い込みをする心理学者も日本では多いことも事実だが。
個人の体験は一般化せずに、階層分化社会によってより働く意欲が増す人が多いのか、努力するとちょっとした差はつくけど大きな差のつかいない社会方が多くの人のやる気を高めるのか、ということを検討する必要があるということだ。
リストラにするといって脅かさないと仕事をしなくなるというのは終身雇用廃止論者のテーゼだが、しかし、リストラの不安があると仕事の能率が落ちる人もいることも事実である。
終身雇用があるおかげで安心して働ける人と、リストラの恐怖がないと働かない人もいる。
リストラがないといって安心してサボる人もいるだろうが、終身雇用をやめて成果主義を導入し、成果次第でリストラすると宣言した会社と、リストラはないか ら安心して会社を信用して働いて欲しいという会社と比べたとき、どちらが生産性が高いかということについて考える必要がある。
そういう割合を考えるのが経済心理学といってよい。
どちらがいかは文化の違いもかんがみなければならないが、日本では年功序列で、会社に長い間やってきたから、ちょっとずつ出世できるというやり方がとられてきたが、それによって皆が一生懸命に働いてきたという事実はある。
それによって高度成長を成し遂げ、世界でもっとも高い生産性を誇っていた時期もあったのも確かである。
少なくとも言えることは、努力をあきらめている人たちには、いわゆる上昇指向、「お金持ちになりたい」という意識はほとんどないので、金銭動機では働いてくれないということである。
現状の「格差をつければいい」という動機づけによって、逆にアンダーマイニングを起こしている層がかなりの数でいるということは知っておくべきであろう。
「所得や収入に格差をつければつけるほど、人間はがんばる」というような単純な動機づけは、賞罰だけで人間の動機づけをみようとする極めて古いタイプの心理学に基づいている。
もしも、臨床の腕のいい医者にはお金で報いればいいということになってしまうと、医療コストは間違いなく上がる。
私たちは超高齢化社会に向かってソーシャルコスト、特に医療費を抑えないといけないという課題を背負っている。
お金をなるべく使わずに優秀な医者に働かせたいのであれば、「お金以外の動機づけシステム」を温存しておくのは大事なことなのである。
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【習文:目次】
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