2010年7月7日水曜日

: 「中抜き現象」

_


● 2009/02


『 
 インターネットは、あらゆるビジネスに「中抜き現象」をもたらす、と言われている。
 モノの流通では問屋機能が弱体化させられいるし、ネット書店によって街の本屋さんがどんどん廃業に追い込まれている。
 
 ニュースの発信元から情報を得て、それを加工して大衆に提供する仕事がジャーナリストとすれば、大衆に直接、情報を示すことのできるネットの機能を発信元が上手に活用するようになれば、中間の処理業者であるプロのジャーナリストの役割は縮小していく。
 それを示唆する現象が出ている。
 産経新聞がはじめた「ウエブ・ファースト」では、「法廷ライブ中継」を行っているが、これがネットユーザーにはすこぶる好評なのだ。
 新聞の裁判記事は、紙面上のスペースに限りがあるたmけエッセンスに絞らざるをえない。
 「法廷ライブ中継」では、話題となった刑事事件の一言一句を細大もらさずサイト上に中継する。
 法定内からメモ書きで記事をピストン輸送し、パソコンに打ち込むので、ライブより多少の遅れは出るが、この一問一答を読み続けるという被告人の微妙な心の揺れが伝わってくる。
 これが、ネット読者に受け、アクセス数がハネ上がるというのだ。
 「法廷ライブ中継」は、ネット時代の新しい報道の在り方を開拓したといえよう。

 本や雑誌のコンテンツを、ネットに配信したり専用プレイヤーに蓄積させるという電子化もどんどん進んでいる。
 ここ数年、めざましい伸びをみせているのが、漫画をネット配信するビジネスだ。
 漫画雑誌や単行本で出版された作品の二次利用が大半だが、ケータイ向けに書き下ろし作品を発表する漫画家もボツボツ出てきている。
 漫画に限らず小説や雑誌を、ネット配信で二次利用する動きは着実に広がっている。
 最大の電子書籍販売サイトは「電子書店パピレス」で、2008年末時点で掲載刷数は9万タイトルを超えている。
 またケータイでは、「新潮ケータイ文庫」が2000年からスタートしている。
 大手出版社で電子書籍のビジネスに進出していないところは皆無といった状況である。
 インプレスR&Dの調査では、電子書籍の販売サイト数は2007年末で「577」である。
 2006年末から比べると1年で割も増えている。
 2007年の市場規模はケータイコミックを含めて「355億円」で、1年前の2006年度より「1.9倍」になっている。
 女子中高生だけという限られた年齢層には、数年前からケータイ小説がブームになっている。
 ケータイに細切れの文章が毎日ネット配信され、アクセス数が多くなれば紙の本として出版するというのが「ケータイ小説」である。
 2007年には文芸書のベストセラーの上位を席巻したが、2008年でピークアウトしたようだ。
 中高年世代は「読書はやっぱり、紙の本でなければ…」と、書籍の電子化を一蹴してしまう人は多いだろう。

 しかし、分厚くて重い事典・辞書類はすでに、「紙」よりも「電子化」の方に軍配が上がっている。
 事典辞書類の電子化は、必ずしもネット配信するものではない。
 専用のプレイヤーの中に多くの事典辞書類を記憶させるものだ。
 2003年ころから1台で使える事典、辞書の収録数が一気に増加し、すでに100冊以上の情報を蓄積しているプレーヤーも売りだされている。
 それが3万円から5万円で買えるのだから、ユーザーにとっては便利で安い。
 100冊すべてを紙の辞典辞書で揃えるとしたら、値段は20倍、30倍となり、重さはなん百倍にもなってしまうだろう。
 事典辞書の推定販売部数は2006年から2008年の3年間の平均で、年間650万冊ほど。
 その金額は約160億円で、2001年ころと比べると約3割減っている。
 一方、電子辞書の販売台数はメーカー推定では年間300万台ほどで、販売金額は約650億円。
 電子辞書は「紙」の4倍以上の市場規模になっているのである。

 カシオ計算機、シャープなどのメーカーは、英語の発音を確認できる音声機能付き電子辞書なども売りだしている。
 中学高校の英語教育の現場では、「家では紙の辞書を、学校では電子辞書で構わない」という指導がすでに定着している。
 2006年からは大学入試センター試験で英語のリスニングが導入されたことも背景にあるようだ。
 2011年度からは、小学校の5年、6年生で英語が必修化される。
 電子辞書はますます売れていくだろう。







 【習文:目次】 



_