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● 2006/04
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原油価格が高騰する中で、にわかに話題にのぼるようになったのが「オイルピーク」、すなわち「石油資源枯渇説」だ。
もともとは、シェル石油の地質学者であるM・K・ハッバード(1903~1989)が、1956年に唱えたものである。
彼は資源埋蔵量と生産量との関係について、
「毎年の生産量は、資源の約半分を掘りつくすと、急速に減少に転じ、それをグラフ化すると(正規分布に近い)釣鐘状のカーブとなる」
というものである。
そしてその際、資源価格は生産がピークに近づくと高騰するものだというものだ。
彼は1956年に、この関係をアメリカの石油資源に当てはめ、当時の埋蔵量を「2,000億バレル」とした場合、1970年代の初めにピークを迎えると予測した。
当時、石油業界ではほとんど相手にされなかったが、実際にアメリカの原油生産は1971年にピークを迎え、その後は減少傾向をたどった。
このピークオイル説は、賛否両論が飛び交いつつも継承され、1988年には元BP(ブリテッシュ・ペトロリアム:ブリテッシュ石油)の地質学者コリン・キャンベルが、地域ごとの原油埋蔵量と生産量を積み上げることで、世界の原油生産のピークを「2010年」の手前と予測した。
この時期には石油が高騰するであろうというシナリオだった。
実際、原油価格は2003年に入ると、旺盛な需要に対する供給不安から上昇基調を強め、2005年には70ドルの市場最高値をつけたことから、市場では再び注目されるようになった(註:2008年には100ドルを突破)。
オイルメジャーズ(国際石油資本)の石油専門家は、このオイルピーク説には否定的である。
石油の埋蔵量は、新規巨大油田の発見によるだけでなく、他にも原油価格の上昇や技術革新によっても増加するとためだというものである。
いわゆる「埋蔵量成長」である。
かって北海油田の生産が1990年台前半でピークアウトすると予測された。
しかし、実際には北海油田の生産は1990年代に入っても拡大を続けた。
これは、探鉱、開発、生産という上流部門で、
①.新たに発見する
②.回収率を上げる
③.コストを下げる
という3つの面からの技術革新が進んだため、埋蔵量が成長したためである。
①の「新たに発見する」では
a].三次元地震探査が導入された。
人工的に起こした地震の波動に対してコンピュータ・グラフィックスによる地層解析を行うことで、油田を発見する確立が飛躍的に上がった。
b].水平掘り(傾斜掘り)の発達。
従来なら井戸は垂直に掘られるのが普通だが、斜めに掘ることで、それまで採算に合わなかった大きな油層の周辺にある小さな油層からの生産も可能になった。
例えば、イギリスのシェトランド島西部やノルウエイ海、バレンツ海などの海底油田の開発では、陸上より海底油田に向けて傾斜して掘ることで生産のフロンテイアが新潮した。
②の「回収率を上げる」では
通常、原油を自噴状態で生産する場合は、埋蔵量のうち「30%」程度の回収率にとどまっている。
これを「一次回収」という。
しかし、「増進回収法:ERP Enhanced Oil Recoverry」で、油層中に水やガスなどの液体を注入することで、回収率を「40%~60%」に高めることができるようになった。
これを、「二次回収」あるいは「三次回収」という。
③の「コストを下げる」では
軽くて強い新材料や、海底に脚を立てない「浮遊生産システム」の導入などでコスト削減が可能になった。
興味深いことは、これらの技術革新は1980年代後半、原油価格が30ドル台から10ドル前後に急落する過程で進んだことである。
埋蔵量の概念を整理しておこう。
埋蔵量と言った場合には、生産を開始する以前に油層に存在していた原油の総量を示す「原始埋蔵量」と、その時点で経済的・技術的条件下で生産可能な石油資源量を示す「可採埋蔵量」とに大別される。
また、さらに可採埋蔵量とそれまでに生産された累積生産量をあわせたものが「究極可採埋蔵量」となる。
ちなみに究極可採埋蔵量は、石油が「約2兆バレル」、天然ガスが「204兆m3」、石炭が「9.9兆トン」である。
BPは毎年、主要産油国の原油生産量と可採埋蔵量を発表している。
2004年末の世界の原油可採埋蔵量は「1兆1886億バレル」。
2003年末からは「409億バレル」拡大(埋蔵量成長)している。
また、オイル&ガス・ジャーナルによると、1993年の石油埋蔵量は「9,970億バレル」であり、この11年間で「1,916バレル」、年平均「174億バレル」の埋蔵量成長があった計算になる。
この量を、どうのように評価したらよいのだろうか。
BP統計によると、2004年の世界の原油生産量は日量「8,026万バレル」である。
これは年間で「293億バレル」になる。
可採埋蔵量は上記のように「1兆1,886億バレル」であるから、41年分の埋蔵量が確認されていることになる。
2000年以降、世界の石油需要は年率で2%前後のペースで増加している。
2006年の石油需要は日量「8,500万バレル」、年間で「310億バレル」となる。
2006年に41年分の耐用年数を維持するには、2004年のから年間で「412億バレル」の埋蔵量を成長させ、オイルピークのタイミングを延ばすことが必要である。
実際にはどうだろうか。
2004年は「409億バレル」の埋蔵量成長があったが、果たして今後も埋蔵量成長は可能であろうか。
1990年以降、巨大油田の発見はなされていない。
よって埋蔵量成長の内容はもっぱら「回収率向上」によっている。
オイルメジャーは原油の高騰にもかかわらず、上流での原油開発投資には慎重である。
過去の低原油時代を知っているメジャーズにとって、巨額の資金と長期間を要する開発投資はリスクが大きすぎるためである。
メジャーズの石油収入は増えているが、開発投資に向けるよりは、むしろ増配や自社株買いに向ける方向に動いている。
よって、旺盛な石油需要に見合っての供給能力は伸びないということになれば、原油市場では、どんな高値が出てもおかしくはないのである。
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【習文:目次】
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