2010年2月17日水曜日
★ 建築に夢をみた:はじめに & あとがき:安藤忠雄
● 2007/05[2002/04]
『
はじめに
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2001年9月、ニューヨークの1つの象徴であったワールド・トレード・センターが崩壊した。
私が20世紀の夢の実現として取り上げた現代都市を突然襲ったテロ事件の悲劇である。
テロは、数多くの尊い人命とともに、都市にとっても最も重要な記憶を奪い去った。
同時にそれは20世紀的世界を形づくってきた価値観そのものを否定する行為だった。
結局、事件の根幹にあったのが異文化間の対立、すなわちグローバル・スタンダードを善とするアメリカ資本主義社会の価値観と、それに対して自らのアイデンテイテイを守ろうとしたイスラム世界の価値観との衝突にあった。
それは追い詰められた人々の、精一杯の抵抗だった。
地球という限られた場所にせめぎあってすみついている私たち人間が、いかにともに集まって生きていけるか、互いの存在を認めあいながら一つの共同体を営んでいけるか、その問題を皆で考えることではないか。
今を生きる私たちの責任は重大である。
あとがき
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本書は2000年4月から6月期の人間講座『建築に夢をみた』のテキストをNHKライブラリーとして再編集したものである。
各章は、私が建築家として数十年を生きてきて、社会に思ったこと、感じたことを課題としてお話し、その後に関わってきたいくつかを紹介するという構成によっている。
それらは私なりに悩み、考えた末に出した、課題への一つの応えである。
だが、それぞれの建築は決して私一人の力で出来上がったものではない。
私につくる機会を与え、思いを共有してくれたクライアント、そのコンセプトを理解して、現実の構築物へと具現化させていく安藤忠雄建築研究所のスタッフ、そして建築の現場で実際にモノとして建物をくみ上げていってくれる施工会社の人々、職人たち----。
文中で安藤忠雄の仕事として取り上げたすべての建物は、彼らとの共同作業によって生まれたものだ。
みなが思いを共有し、精一杯の力を尽くして、はじめて建築は命を得る。
私たちは、人々に生活の安全と、安らぎをもたらす基盤を築いていくべきこの建築という仕事に、誇りと非常な責任をもって生きている。
そうして手がけてきた建物の一つ一つの成長を、今日まで皆で見守ってきた。
その責任を自分たちで抱えきれなくなるまでは、誇りを持ち続けられる限りは、建築で精一杯生きていきたい。
そのように考えている。
2002年2月24日 安藤忠雄
』
【習文:目次】
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