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● 2009/06
『
■ 割り算
割り算は足し算、引き算、掛け算にくらべて格段に難しい。
難しさだけでなく、もっと異質な違いがある。
例えば16を7で割るとするとどうなるか。
①.16÷7=2 余り2
②.16÷7=2.2857142857…
③.16/7
要するに割り算は、それが考えられている文脈の影響を受ける。
古代人の計算が今に伝えられている中で、割り算には格段に人間の精神活動の息吹が感じられる。
そして、実際そこから、より深い数学が生まれている。
割り算こそが「数学の芽」なのである。
例えば古代エジプト人は、大変不思議な計算を残している。
「2/13=1/13+1/13」であるが、エジプト人は、
「2/13=1/8+1/52+1/104」
と、計算している。
要するに分数を、1/8や1/52のように分子が「1」であるようなもの、すなわち「単位分数」の足し算に分解している。
おそらくこれはナイル氾濫後の川岸の区画整理を行うための測量技術が発達したことによるものだといわれている。
パルペドナプタイ(縄張り師)と呼ばれ人々は、縄を巧みに使って長さや面積を測量する術に成熟していたらしい。
■ 開平の計算
『九章算術』の方法で平方根の近似値をもとめる歩法を紹介しよう。
例えば「10」の平方根を考える。
● 最初に近似値aとして3をとる: a=3
● aの2乗を10から引く: 10-3**2=1
● その結果を2aで割り、bとする: b=1/(2*3)=1/6
● 同じ数を今度は「2a+b」で割り、cとおく: c=1/(6+1/6)=6/37
こうして得られたcを使って、a+c=3+6/37を考えると、これは最初にはじめた3よりも、10の平方根のより近似になっているというのである。
実際、「3+6/37=3.162162162…」であり、これは10の平方根として非常によい近似になっている。
さらにこれをaとして、もう一度繰り返せばさらによい近似を得ることができる。
現代的な式で書くと<図>という近似式に基づいたものである。
■ 積み算
われわれが普段行っている、縦型の計算方法、いわゆる「積み算」という方法は、実によくできている。
例えば、8691+727だったら、
と、計算する。
このような計算は、ひじょうに優れている。
●.機械的であること。
方法を一度憶えてしまえば、余計な考察をする必要がなく「手さばき」で計算できる。
●.シンプルであり、習得が安易である。
●.一般的であること。
どんな数であっても、どんな桁数であっても、一律に計算できる。
このような、図式計算が可能となるためには、数を「10進数位取り表記」ができていなければならない。
それがいつ頃、どこで、どのようにして発明されたかは、あまりはっきりしたことはわかっていない。
遅くとも8世紀までにはビンドウー文化圏において成立していることはわかっている。
これは、そのあたりの人々の純粋な発明ではなく、中東やおそらくエジプトを含めた地域で、次第に形成されていったアイデアが、シルクロードの交流路を通じて広まったものであろうと思われる。
一度、それが発明されると、この便利な表記法は次第にイスラム圏にも浸透していった。
10世紀のアラビア語の算術書には、現在のものとほぼ変わりない、積み算による計算方法が明確に記されている。
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【習文:目次】
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