2010年8月24日火曜日

★ マイクロソフト戦記:世界標準の作られ方:トム佐藤

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● 2009/01



 デファクト・スタンダード(事実上標準)は、マーケットコンセンサス(市場合意)なくしてはありえない。
 では、いかにしてマーケットを説得するのか。
 そもそも、マーケットとは何か?
 誰が説得すれば、納得するのか?

 ネットワーク社会学の権威、アルバート・ラズロ・バラバシ教授はIBMのような会社をコンピュータ業界の大きな「ハブ」と呼ぶ。
 ハブとは大勢とのつながりを持つ企業のことである。
 つながりの少ない企業は「ノード」と呼ばれる。
 ネットワーク社会では大きなハブが市場を支配し、その周りにちいさなハブが点在する。
 さらのその周りに無数のノード企業が散在している構図になる。
 ハブが少なく、小さなノードが無数にあるあるネットワークを「スケールフリー・ネットワーク」というが、それはやがてハブが力を持つようになり、ちいさなノードを引きこんでゆく。

 IBMの場合、PCを発表すると同時にマイクロソフトをはじめ、多くのソフト企業が協力者になっていった。
 時には競合相手からノード企業を引き剥がして見方につける。
 大きなハブが威力を発揮し、小さなハブやノードを引きこんでいくと、そのうち一点集約型のネットワークができる。
 これを「スター型ネットワーク」というが、一旦、スター型に集約されると、ひとつのハブ企業が市場を独占するようになる。
 このプロセス=「ボース・アインシュタイン凝縮」とといい、インドの物理学者サテイエンドラ・ボース教授のの手紙をもとにアインシュタインが予言した原子物理学の減少に由来する。
 バラバシ教授は、ネットワークがスケールフリーからスター型に集約されていくプロセスが、それと同じであることを発見した。
 
 原子物理や会社同士の業界ネットワークだけでなく、さまざまなネットワークがスケールフリー型から、ある時点でスター型に集約されていくのである。
 現在のパソコン業界は、そのネットワークはボース・アインシュタイン凝縮を経て、スター型に集約された後であり、中心はIBMではなくマイクロソフトになった。
 ではマイクロソフトは、どうやって業界の中心点を奪い取ったか。
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 デファクトスタンダード(事実上標準)の作り方にマニュアル本はない。
 では、デファクトスタンダードを作り出す定石はないのだろうか。
 私はこう答えたい、
 「絶対作り出せるというような魔法は存在しない。」
 が、それを作り出すことを可能にんする条件を挙げることはできる。

 第一に「核となるテクノロジー」をもっていること。
 テクノロジーをベースに「最大多数の最大幸福」の論理で、そのテクノロジーを分けへだてなくオープンにすること。
 胴元だけが儲かるようなシステムにはデベロッパー達は集まらない。
 デベロッパーズ・リレーションズ部隊を設立し、開発キットを提供する。
 開発者が困った場合は、サポートするようなメカニズムが必要である。

 第ニに、ネットワークを正確に把握すること。
 デファクトスタンダードは、市場のコンセンサスなくしては実現しない。
 人間関係のネットワークの形を理解し、どこの誰を巻き込んで、ドノハブを取り込めばいいのかを知っておくこと。

 第三に、テクノロジーの波を理解すること。
 少なくとも、第三波が来る前から準備しておくこと。
 大波が来たとき、一気に市場普及へと動けるようにしておかないといけない。
 テクノロジーの進歩と普及の度合いを敏感に感じとり、的確なスペックの商品を出荷できるようにしておくこと。
 そのためには、3回はバージョンアップするくらいの資金力と開発担当者の体力がいる。

 第四に、ネットのみならず目に見えるイベントで、人間関係を構築しておくこと。
 満場の人だかりを確認して、初めて市場関係者はテクノロジーの流行を確認するのだ。
 だから、イベントには市場のメジャープレイヤーを取り込んでおくことが不可欠である。

 そして最後に、そのテクノロジーには、人を魅惑しひきつけることができる特徴を持たせる必要があること。
 そのテクノロジーが、あるいは商品が「最大多数の最大幸福」をもたらすものでなくてはならないということである。









 【習文:目次】 



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