2010年12月22日水曜日

: あなたも家なき子だ


● 2007/09



 妻とは長年付き合っているが、驚きは尽きない。
 妻と長年付き合ったということが驚きだ。

 ある休日の午後、柔らかい日差しの我が家の居間で、のんびりテレビを見ながら哲学的試作にふけっていた。
 と、妻が険しい顔をして言った。
 「いつ帰るの?」
 自然な言い方だったので、一瞬、帰ろうとしたほどだ。
 「もしかして、ここはオレの家じゃないのか」
 「----あ、ほんとだ」
 驚きだった。
 妻の無意識の中では、この家は妻の家であって、わたしの家ではないのだ。
 わたしを誰だと思っているのだろうか?。
 わたしがこの家の客人だと思ったら大間違いだ。
 その証拠に、お茶一杯出てこないではないか。

 胸に手を当てると、思い当たるフシもある。
 第一、家を出るとなぜかホッとする。
 「家とはやすらぎの場所だ」
という定義によれば、確かにわたしの家はこの家の外にある。
 わたしは公式には世帯主だが、「公式」とは「実態と違う」という意味だ。
 このことからすると、実際のこの家の世帯主はわたしではない。
 たぶんおそらくきっと、妻が「早く帰れ」と言ったのは、何かの間違いだろうと思う。
 だがフロイトも言ったように、言い間違いは、本音を無意識的に正しく表現しているのだ。
 妻の心のなかでは、わたしは世帯主どころか、同居人ですらないのだ。
 
 考えれば、身を粉にして働いてローンを払い終わり、やっと自分の家になったと思ったら、いつの間にか家は妻の手に渡り、「家なき子」になっていたのだ。
 その後、調査したところでは、ほとんど中年女は、夫を、 
 「立ち退こうとしない借家人」
だと思っていることが判明した。
 それでも家賃を入れている間はまだいい。
 定年になって家賃を入れられなくなると、強制執行をかけて離婚に及ぶのだ。
 だから、男が家を失いたいと思ったら、その一番の近道は結婚することだ。
 わざわざ家を抵当にして返済できないほど借金する必要はない。
 結婚すれば家だけでなく、金も自由も幸福もプライドもきれいさっぱり失うことができるのだ。
 
 自分は違うと考えている男性も多いとは思うが、次のテストをやってもらいたい。
 該当する項目が2つ異常あれば、「あなたは家なき子だ」。

☆ 家で休んでいるときに限って、妻が掃除機をかける。
☆ 休日にテレビを見ていると、妻が突然消す。
☆ 思い当たることがないのに、妻が聞こえるように舌打ちをすることがある。
☆ 妻が2メートル以上近寄ろうとしない。
☆ ハゲてきた。
☆ ハゲてきたのに、妻が気づかない。
☆ 結婚して20年以上たつ。
☆ 「ここをだれの家だと思ってるの」と言われたことがある。
☆ 毎日「出て行ってちょうだい」と言われている。
☆ 以上の一つしか該当しない。

 格言も変える必要がある。
 昔は「女三界に家なし」と言われたものだが、今や前向きに「男は荒野を目指せ」または、
 「男は荒野を目指すしかない」
とすべきである。
 また、
 「家は遠くにありて、思うもの」
を加えるべきだ。







 【習文:目次】 



_