2010年12月15日水曜日

★ 『迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか』


● 2007/08



 進化とは
 
 進化とは本来、「自身の生存」と「種の保存」に役立つ遺伝形質を好み、健康を脅かす(とくに生食可能な年齢に達するまでの健康を脅かす)遺伝子形質を嫌うものだ。
 生存と種の保存に有利なものだけが残ることを、「自然淘汰」という
 その基本はこうだ。
 ある生き物が生き残れそうもない弱点を持つ遺伝子、あるいは子孫を残せそうもない弱点をもつ遺伝子は、次の世代に受け継がれにくい。
 たとえ受け継がれても何代かのうちに途絶える。
 なぜならそうした遺伝子を持つ個体は、生き延びる可能性も子孫を残す可能性も少ないからだ。
 一方、その生き物をより強くするような遺伝子、より繁殖力を高めるような遺伝子は子孫に受け継がれやすい。
 生存と種の保存に有利な遺伝子であればあるほど、その種全体が保持する多様な遺伝子の総体、いわゆる「遺伝子プール」に急速にたまっていく。
 
 遺伝性の病気が進化の法則に一致しないのは一目瞭然である。
 では、人間を弱らせるような遺伝子が、なぜ何千年も人類の遺伝子プールに留まっているのだろうか?
 祖先の暮らしてきた環境が、今のわれわれの遺伝子にどんな影響を与えてきたのだろうか。
 われわれはどうやってここまできたのか、どんな生き物と共存してきたのか、その生き物たちはどうやってここまできたのか。
 われわれにとって好ましい方向に進むためには、何をどうコントロールすればいいのか。

 さて、まず皆さんがいだいているこもしれない先入観を正しておこう。

まず第一に。
 あなたは単独で存在しているわけではない、ということだ。
 あなたの体内に存在している生き物がいる
 消化器系には何兆という最近が棲んでいる。
 それが、口から取り入れた食べものを分解する手助けをしてくれている。

二番目に覚えておきたいこと。
 進化とはその種のみで起こるのではない、ということだ。
 この世界は無数の生き物の集合体で成り立っている。
 アメーバから人間に至るまで、すべて生存と種保存を至上命令として生きている。
 進化とは、それらすべての生き物が生存と種保存の確率を高めるために起こす「前進」なのだ
 それゆえ、ある生き物にとっての生存が、別の生き物にとっての死になることもある。
 ある種が進化するということは、その他多くの種に進化を促す圧力となってくる。
 実際、多くの種がその圧力にさらされることで進化している。
 とするとまた、その影響を受ける別の種が進化する----というわけである。
 つまり、この世界のあらゆるものがあらゆるものの進化に影響を及ぼしているということである。
 人間は最近やウイルスや寄生虫のせいで病気になる。
 だが最近やウイルスや寄生虫は、人間をそれらと共生していけるように進化させてきた。
 一方で、最近やウイルスや寄生虫も進化してきたし、現にいまも進化し続けている。
 環境要因も人間を進化させてきた。
 ダンスを踊っているようなものだ、全地球的な進化のダンスを。

三番目。
 突然変異は悪いことのように思われがちだが、そうではない。
 突然変異とは、単純に「変化」を意味する。
 変化した結果が悪ければ生き残らないし、よければ進化につながるだけ。
 これが「自然淘汰システム」だ。
 その生き物の生存と種保存に役立つような遺伝子の突然変異が起これば、その遺伝子は遺伝子プール全体に広まる。
 生存と種保存を脅かすような突然変異なら消え去るのみ。
 ちなみにここでいう「よい」か「悪い」かは、どちらの視点に立つかで変わる。
 抗生物質耐性菌の出現は、人間にとっては「悪い」突然変異だが、細菌にとっては「よい」突然変異となる。

最後に。
 DNAは運命ではなく単なる「歴史」である。
 あなたの遺伝子があなたの人生を決めるのではない。
 もちろんある程度は形作る。
 が、それ以上に親の養育方法や環境、あなた自身の選択が大きな要素をしめている。
 あなたの体にあるDNA情報は、あなた以前の祖先がたどってきた遺産にすぎない。
 あなたの遺伝子コードのどこかに、祖先が切り抜けてきた苦難に適応するために起こしたあらゆる突然変異、あらゆる変化が記憶されているのだ。





 【習文:目次】 



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