2010年7月6日火曜日

★ 新聞・TVが消える日:プロローグ:猪熊建夫


● 2009/02



 すっかりインターネットの社会になってしまった。
 新聞に掲載されているニュースはパソコンや携帯電話でそっくり読める。
 動画映像も携帯端末で存分に楽しめる時代になった。
 さらにネットの侵食によって米国の新聞社も身売り・再編が相次ぎ、倒産した新聞社も出てきた。
 日本の新聞界も崖っぷちに立たたされ、
 「新聞が消える日」
が現実味を帯びてきた。
 テレビにもネットは侵食のピッチをあげてきている。
 欧米では「放送と通信の融合」が本格化している。
 日本のテレビ界も、及び腰ではあるものの放送済み番組のネット配信に踏み切った。
 新聞に続いて、
 「テレビが消える日」
も、やってくるのだろうか。

 ともかくもインターネットが猛威をふるっている。
 それを如実に示すデータを、まず紹介しよう。
 インターネット上の情報量は10年間で「1万5400倍」に膨れあがった。
 このため日本で流通するすべての情報量は「530倍」になったということになる。
 あまり注目されていない調査だが、総務省は毎年、「情報流通センサス」というのをだしている。
 各種メデイアによる情報流通を共通の尺度で計量し、時系列的にその動きを把握しようとするものだ。
 2006年度調査では、インターネット、テレビ、電話、データ通信サービス、電子マネーから新聞、書籍、封書などの情報伝達手段を「71種」選び出し、それぞれを計量化した。
 一般にいうメデイアより、相当、広義にとらえているから、「71種」にもなるという。

 実際の計量においては、文字や動画などさまざまな情報形態の情報量を、各メデイアに共通な尺度として、
 「日本語1語=1ワード」
とする「ワード単位」に換算している。
 例えば、
 日本語文章(漢字かな混じり文)の1文字を「0.3ワード」、
 話し言葉は1分で「71ワード」
 音楽は1分で「120ワード」
 カラーテレビは1分で「672ワード」
といった換算比価を使っている。
 さらに、コンピュータ上での日本語は1文字は「16ビット」であるから、「1ワード=53.3ビット」としてビット換算している。

 2006年度の情報量は、「2.28×10の20乗」ワードで、1996年の数値と比べと「530倍」になっている。
 年平均伸び率に換算すると「87.2%」の伸びになる。
 そのうちの「98.8%」をインターネットが占めているのである。
 テレビ・新聞など他のメデイアはなんと計「1.2%」に過ぎない。
 つまりほとんどインターネットの情報が占めていることになる、というわけだ。
 ネットだけの情報量をみると、10年間で「1万5400倍」にもなっている、というのだ。
 電子メール、ブログ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、検索サイト、動画配信・投稿サイトなど、人々が日々、ネットにいそしむ姿が、こうした数値に表れてきているのである。
 筆者は熟年時代に所属するが、これまでネットに関心が乏しかった友人、知人たちも、どんどんパソコンに熱中しだした。

 爆発的に情報があふれる中でコンテンツ産業、とりわけ新聞とテレビが影響を受けないでいられるわけがないのだ。
 それは、2008年度に入ってくっきりと現れてきた。
 2008年9月中間決算で朝日新聞が営業赤字に転落し、また産経新聞は経常利益が赤字になってしまった。
 ネットに恒常的な広告を奪われていることに加え、世界経済の急激な悪化で、自動車、電機などの大企業が軒並み広告宣伝費を大幅カットしてきたためだ。
 「新聞が消える日」の予兆ともいえるかもしれない。
 テレビもかなりの異変が起きた。
 2008年9月中間決算で、東京キー局5社のうち日本テレビ放送網とテレビ東京の2社が純利益ベースで赤字に陥ってしまたのだ。
 他の3社も大幅な減益となった。
 企業側の広告戦略がテレビからインターネットへとシフトしていることが影響しているようだ。

 光ファイバー網などによるネットのブロードバンド化は、ここ数年で急速に進んだ。
 ブロードバンドの契約数は2008年末で、全国で約3千万となった。
 総務省のデータによれば、ブロードバンド契約者がダウンロードした1秒あたりの情報量は、統計を取り始めた2004年9月と2008年5月を比較すると、3.2倍になっている。
 ブロードバンドは、文字写真音楽などと比べるとはるかに情報量の多い動画映像を伝達する能力を持っている。
 ある意味ではテレビより優秀だ。
 テレビは「1対多」の一方通行である。
 ブロードバンドでは動画映像は「1対1」でも、「1対多」でも「多対1」でも送ることができる。
 しかも、送信・受信の双方向が可能だ。
 ブロードバンドを駆使すれば、誰でもテレビ局になれるのだ。

 インターネットによって、コンテンツ産業の立ち位置はどう変わっていくのか。
 その半分弱の市場を占める新聞とテレビはどうなるのか。
 「新聞とテレビが消える日」は近づいているのだろうか。
 あるいは既存のコンテンツ産業とネットの間で、著作権や情報通信の体系についていかに折り合いをつけていくのか。
 ホットな動きに目をこらしながら、こうした動きを俯瞰してみたのが、この本である。





 【習文:目次】 



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