2010年7月2日金曜日

★ 歯がゆいサラリーマン大国・日本:クライン・孝子


● 1999/02



【リストラにおびえない4つの理由】

 戦後から今日まで、日本企業の美徳だったはずの年功序列や終身雇用といった日本型経営の基盤がゆらぎはじめ、日本のサラリーマンにとって、
 「会社のために身を粉にして働くメリット」
が少なくなりつつある。
 これまで日本の経済が経験したことのない「大転換期にある」ことだけは間違いない。

 しかし、それにしてもです。
 日独のこの大きな違い、一体これはどういうことなのでしょう。
 この違いは一体どこからくるのでしょう。
 要因としては、ドイツのサラリーマンの考え方というか、生き方にあるのではないかと思います。
 主に気づく点を挙げてみましょう。

(1).ドイツのサラリーマンは、自己責任と自己管理が行き届いている。
 日本の集団主義と正反対といってよく、それだけに、常に自分を守るためにアンテナを張り巡らしています。
 そのアンテナは会社だけではなく、会社から一歩出たところでも、自分の所属する労働組合や、自分の周囲で行われている政治にも向けられます。
 日本のサラリーマンが、会社一筋で、言葉は悪いのですが”馬車馬”のように働きづめで働いてきたのに対し(だからこそ、日本がこれほどの経済大国になれたのですが)、ドイツのサラリーマンは利口で、世間ズレしているというのでしょうか、冷たい目で世間をみつめ、要領よく立ち回っている。
 終身雇用や年功序列という習慣がないため、解雇は日常ですし、その一方で能力のある者は、よりよい条件と職場を求めて会社を渡り歩き、昇進のチャンスを掴みます。
 それだけにボヤボヤしていられない。
 自己管理と自己責任を自らに徹底させていなければならないのです。

(2).ドイツではほとんどのサラリーマン家庭が共稼ぎか、あるいは正式に職に就かない場合でも、妻が内職やパートで働いていて、経済的に自立している。
 つまり一家の負担が、夫一人の肩にかからないように工夫している。

(3).ドイツのサラリーマンは自分の職業に対して、自分の意思で選んだ職業であるという誇りを持っている。
 ドイツは伝統的にマイスター(手に職を持つ人)を非常に尊ぶ国です。
 日本のサラリーマンのように、どの会社に就職するかを重んじるのとは違って、自分はどの職業を身につけているかを重んじるのです。
 彼らは、誰にも負けない腕を持っているという自負があるため、どのような窮地に追い込まれても、結果として腕一本で生き抜いてみせるという自信をもたざるを得なくなっている。
 ですから、たとえリストラの対象となったとしても、運が悪かったと気を取り直して、すぐに仕事を探す。
 「へこたれることはできないのです」。

(4).
 ドイツのサラリーマンは身分をわきまえている。
 一言でいえば、
 「サラリーマンとは何か。会社に労働を売って報酬を得る、使われている身分にすぎない」
ということを、早い時期から頭に叩き込んで、自分の生き方や価値は会社以外のところで見出し、自分の生活を大切にしている。
 というのも、ドイツにはいまだに、厳然とした身分制度が残っているのです。
 そのドイツの階級ですが、「超上流階級」として、旧貴族階級=アリストクラシーがあり、彼らはめったに公衆の前には姿を現わさず、彼らだけの閉鎖的社会を作っているといわれている。
 そして、どいつの一般社会もまた、この階級の存在を当然のこととして受け止めている。
 旧貴族階級いがいの階級は、主として職業によって分けられ、いずれの階級も、例外はあるものの、ほとんど同じ階級の者同士で交流するケースが多い。
 よって、兄弟姉妹でも職業がちがうと、ほとんど交流がなく、せいぜい冠婚葬祭のときにのみ顔を合わせるだけというのが普通になっています。

 このような身分制度と職業区分制の明確なドイツでは、なによりもまず、日本でいうところの「サラリーマン」という概念が、それ自体で成立しないのです。
 もちろんドイツに「サラリーマン」がいないわけではありません。
 ただ、ドイツでいうサラリーマンは、職種によって、それぞれ文化しているのです。
 別の言い方をしますと、日本で一括して扱われている「サラリーマン」というのは、ドイツでは3つの「階級」に分かれ、それぞれ独立した形で存在し、おのおの一つの社会を構成しています。
 その3つの階級ですが、次のようになります。

[1].ブルーカラー
 製造現場で働いたり、下積みの肉体労働や単純労働に就く生産労働者・現場労働者
[2].ホワイトカラー
 事務的な中間部門に携わる職員
[3].エリート
 主として大学卒業と同時に与えられる”マギスター”や”デイプローム””博士号(ドクター)”という資格を持つキャリア組

 ブルーカラーの中には、マイスターの資格を取得して、自立して自営業を営んでいる人も多くいます。
 エリートに所属する人たちには、法律家とか医者、教師という職業が含まれます。
 そしてこれらの3つの階級への配属はおおむね「小学校終了時」に決定されてしまうのです。
 つまり、「サラリーマン3階級」とは、そのルーツは学校教育にあり、ドイツの学校教育では、身分を振り分けるために、徹底した実力主義が取り入れられているのです。
 ただし、ここで注意することは、その身分の振り分けの機会については、誰でも平等に与えられているということです。





 【習文:目次】 



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