2010年2月9日火曜日

: シビリアン・コントロールとはなにか


● 2002/07



 西洋の歴史では、シビリアン(civilian)、シチズン(citizen)は、一般国民ピープル(people)とは違うのである。

 歴史的にはシビリアンというのは「都市国家の大金持ち」のことである。
 ローマ帝国の頃もそうである。
 古代ローマのシビリス(civilis)市民というのは、奴隷を30人以上抱えている都市の商工民以上の富裕層のことだ。
 ローマではこの市民たちが選挙権を持っていて、彼らが貴族(パトリシアン)である元老院議員たちに投票した。
 中世の西欧の都市国家(シテイ・ステイト)では、このシビリアンというのが、その自治都市の議会の議員たちのことであった。
 富裕な船主のような大商人たちが議員だったのである。

 シチズンというのは、他所から移り住んできて存在を認めてもらうようになった仮想の政治参加有資格者の人たち、という意味である。
 シチズンシップという語は、ナチュラライゼーション(naturalization:帰化)、すなわち「外国籍から帰化して、その国の国民になる」という語と同義であり、今日ではまったく同じ意味なのである。
 本来は、シチズンはシビリアンと違って、その年や国家の名誉ある立派は役職には就けない人々だ。
 もともとは本来参政権がない人々で、他所からの移住者扱いだからである。
 それが参政権(市民権)をもつようになってきたということだ。
 この古代から中世にかけてのヨーロッパの政治国家の作り方が全体としてわからないと、シチズンという言葉一つ、日本人には理解できないのだ。

 ピープルとは一般大衆であり、一般国民であり、普通の大衆だ。
 権力者や大金持ち層ではない、ただの庶民のことだ。
 もっとはっきり書けば、貧乏人大衆のことである。

 シチズン=「市民」は、ピープルよりはかなり偉いのである。
 現在では、シチズン=ピープルのように使われているが、まったく違う。
 それでは、「シチズン」とは何か。
 もっとわかるように核。
 シビリアンとは「大金持ち層で、国家の議員=代表者=政治指導者にもなるような支配層の大市民」である。
 「市民」というシチズンは「小市民」である。
 ブルジョア(大金持ち層)に対するプチブルジョアという言葉がフランス語にあるが、あれがシチズンである。

 シビリアン・コントロールの定義を言うと、「国民議会の国会議員たちが、軍隊を動かす権限を握っている」ということである。
 アメリカ合衆国は、議会が「宣戦布告」する国である。
 ふつうの国では大統領あるいは国王・元首が行う。
 The Declaratio of War(宣戦布告)を行うのは、アメリカでは上院議会の権限である。
 これを受けて大統領が最高司令官として戦闘を開始する。
 たとえば2001年9月11日のテロ事件後の9月14日に、アメリカ連邦議会では、上下両院で「大統領に必要なすべての軍事力を行使する権限を与える」という決議を採択している。
 これが、まさしく「シビリアン・コントロール」である。
 1991年の湾岸戦争のときも「議会は、大統領に10日間に限り戦争を遂行する権限を与え、そのための戦費を与える」という決議をしている。

 アメリカ議会では、上院の歳出委員会と軍事委員会が力をもっており、下院では予算委員会が力を持っている。
 古代ヨーロッパ以来、西欧では、連綿として議会が財政を握り、行政(軍人皇帝、国王、大統領、政府)の権限を拘束してきたのである。
 そして、ここでの不可避の対立のことを指して、「権力分立」というのである。

 国防総省の組織構成は、国防長官と、三軍を統括する陸軍長官、海軍長官、空軍長官の4人が文官(シビリアン)である。
 この4人は基本的に軍人歴を持たない人々でなければならない。
 徴兵されて軍役についた場合は除き、職業軍人であってはならない。
 文官である国防長官の下の三軍(現在は、これに海兵隊を加えて四軍とするのがふつう)のそれぞれの長官も文官である。

 文官が、武官(軍人)たちに、必要に応じて戦争遂行用の国家財政資金を与える、という伝統的仕組みになっている。
 ここに近代国家なるものの重大な本質が横たわっている。






 【習文:目次】 



_