2010年2月18日木曜日

: 広場

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● 2007/05[2002/04]



 旧い歴史をもつイタリアの都市にはすぐれたものが多く、それぞれに歴史の年輪を刻み込んだ美しい広場が都市の核として営まれてきました。
 都市の整備が行われるようになるのは、ルネサンス期のローマからです。

 特に日本人にも親しみ深いのは、映画『ローマの休日』で有名なスペイン広場でしょう。
 この正面を飾る階段は、まさに舞台装置というに相応しいものです。



 ここでの階段は、本来の異なるレベルをつなぐという機能を超えて、広場の背景としての役割を果たしています。
 逆に、階段を上りそこに立つ人にとっては、階段が都市を眺める観客席になります。
 つまり、この階段は人々のありとあらゆる行為を包みこんだ劇場そのものなのです。
 階段は、イタリア広場や建築に独特の味わいをもたらす重要な要素であり、空間に変化とふくらみを与えるのに欠かせないものです。
 スペイン広場は、この階段の楽しさを満喫するための建築なのです。

 中世の広場は市民生活の必要から生まれたのに、あくまで経験的、身体的な感性に基づき人々が素朴な感動を得られるように造形されています。
 その最たる特性は、広場を取り巻く壁の存在がより'意識的に扱われている点です。
 無論、ルネサンスの広場においても空間は閉じて簡潔しているのですが、中世では不整形なものが多いため、より一層その傾向は強調されて感じられるのです。
 この広場を囲い取るという意識こそが、西欧の広場の本質であり、また日本の都市が西欧的な意味での広場を持ち得なかったゆえんです。

 西欧の人々にとって、広場とはいわば戸外の居間でした。
 居心地の良い居間として成立するためにはなによりそれが空間として意識されるよう、明快な領域が設定されていなくてななりません。
 それゆえ周囲は連続した壁面によって囲われる必要があったのです。
 その意識は、ルネサンス以降になると、建築の内部と外部とを切り離して考える、すなわちファサードを街路や広場の壁面を形成するものと区別して考える思想へとつながっていきます。
 ルネサンス以降のヨーロッパにおいて広場の整備とは、広場ファサードの整備を意味しました。
 ミケランジェロのつくったローマのカンピドリオ広場も、ファサードを整えて広場を完成させる手法の典型的な例です。








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