2010年8月17日火曜日

: クジラの所有者は誰?

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● 2009/01



 前述のとおり、世界には80種類以上のクジラが生息している。
 このうち、ヒゲクジラの仲間は全部で20種類、そのほかのの60数種は歯クジラの仲間である。
 
 ヒゲクジラ20種すべてと歯クジラのマッコウクジラ、シロイルカ(ベルーガ)、シャチなどとの人間のかかわりは特に顕著である。
 大型ヒゲクジラは、南北両半球の低緯度と高緯度の間を長距離回遊する。
 この性質を「高度回遊性」と呼ぶ。
 回遊は、低緯度帯の繁殖場と高緯度帯にある索餌場との往復運動として行われる。
 サケ・マスやマグロなども高度回遊性の資源であり、無制限な利用から資源管理の時代へと変化してきた。
 クジラを保全し、絶滅から救う方策として、特定の繁殖場や索餌場を聖域として、人間の介入を制限する提案がなされてきた。

 現在、国連海洋法条約(UNCLOS)により、
①.主権国家の領海(12カイリ)
②.排他的経済水域(200カイリ)
③.自由海面(公海)
となっている。

 下の表からわかるように、1980年代にはほとんどの大型クジラの捕鯨が主要な漁場である大西洋、南極海、北洋において禁止とされた。
 インド洋も1979年に保護区とする案が可決された。
 が、インド洋沿岸国は、クジラによるマグロの食害が3割に達しており、当時、反捕鯨国でありながら国内事情との兼ね合いを行っていないことが問題となっている。
 1980年代以降あたりから登場するのが「クジラ聖域論」である。
 1979年に上記のようにインド洋の聖域化が採択された。
 インド洋、南大西洋、南極海における聖域案は、クジラ資源の徹底的な保護を目指すもので、クジラ類の持続的な利用を懸案したものではない。
 オーストラリアが自国の領海をクジラの聖域とすることを宣言しているのも同じような発想によるものである。
 
 捕鯨推進国ないし団体と、反捕鯨国や団体との間には考え方や取り上げられている論点にはかなり大きな開きがある。
 持続的にクジラ類を利用すべきとする推進国にたいして、反捕鯨の立場からは、残酷である、非人道的であるとの意見が表明されている。
 商業的であるから時代遅れであるとかの意見も強い。
 捕鯨に反対しながら、国内的には狩猟を認め、野生動物を兵器で殺戮しているいう分裂した思想への批判もある。
 たとえばオーストラリアでは、数千年以上昔に持ち込まれたイヌの一種デインゴが虐待されている。
 その映像をみたが、ヤラセかどうかはは別として狂気の沙汰としか思えなかった。
 日本でも、イヌやネコへの虐待事件があり、それに輪をかけたような仕業に憤りさえおぼえた。

 増えすぎたオオカンガルーの大量殺戮計画も世界中に衝撃を与えた。
 首都キャンベラ近くにある2つの軍用地でカンガルーが大繁殖した。
 草原で草を摂食するために、オーストラリアでも貴重な植生が脅かされ、ある種のガやトンボ、バッタ、カラシナの一種などが絶滅の危機にある。
 ということで、軍による400頭の間引きが計画されたが、動物愛護団体からの批難を浴びて計画が暗証に乗り上げた。
 カンガルーの食肉や毛皮は世界中の国々に輸出されており、この点でも動物愛護団体から批判が高まっている。
 カンガルーの異常繁殖は生態系の破壊、商業的な利用をめぐってさまざまな問題を引き起こしている。

 けれど、最近オーストラリアでは地球温暖化防止の製作として、ウシやヒツジのかわりにカンガルーを増産する計画を発表した。
 ウシとヒツジが出すゲップがメタンガスを含んでおり、温暖化を助長する。
 ウシやヒツジの頭数を減らし、メタンをほとんど排出しないカンガルーを増やすことが地球環境にとってもよく、温暖化ガス排出を2007年度比で3%減らすことができると試算された。
 報道でも大きく取り上げられたカンガルー問題は、虐殺の批難を打ち消す上で十分に効果があった。
 野生のカンガルーを増やす計画は、計画立案者の中では妙案とされたであろう。
 二酸化炭素の排出を削減するならば、なりふり構わないとする考えが、見え隠れする。
 かれらの自然観は、どこか日本人と違うような’気がする。
 カンガルー殺しに対する批判についての記者団へのインタビューに答える形で、
 「カンガルーとクジラの問題は違う。
  反捕鯨の立場は今後とも貫く」
という発言を知ったとき、こうした発想が今後地球でますます大きくなることだけは避けたいと思うのだが。









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