2010年8月10日火曜日

★ ぞうの時間 ネズミの時間: 「1/4乗則」:本川達雄


● 1993/09[1992/08]



 体のサイズと時間との間に、ないか関係があるのではないかと、古来、いろいろな人が調べてきた。
 例えば、心臓がドキンドキンと打つ時間間隔を、ネズミで、ネコで、イヌで、ウマで、ゾウで測りして、おのおのの動物の体重と時間との関係を求めてみた。
 サイズを体重を表すのは、体重ならハカリにのせればすぐできるが、体長でサイズを表すと、シッポはどうしたらいいかとか、難しい問題が出てきてしまうためである。
 いろいろな哺乳類で体重と時間との関係を測ってみると、こんな関係が浮かび上がってきた。

 時間 ∝ (体重)**1/4

 つまり、「時間は体重の1/4乗に比例する」のである。

 体重が増えると時間は長くなる。
 ただし、1/4乗というのは平方根の平方根だから、体重が16倍になると時間は2倍になるという計算になる。
 体重の増え方に比べ、時間の長くなり方はずっとゆるやかである。
 大きな動物ほど、何をするにも時間がかかることになる。
 時間の流れる速度が違ってくるらしい。
 ということは、動物が違うと、時間の流れる速度もまた違ってくるものらしい。
 例えば、体重が10倍になると、時間は1.8倍になる。
 これは動物にとって無視できない問題である。

 この1/4乗則は、時間がかかわっているいろいろな現象に広くあてはまる。
 動物の寿命をはじめとして、おとなのサイズに成長するまでの時間、性的に成熟するのに要する時間、赤ん坊が母親の胎内に留まっている時間など、すべてこの1/4乗則にしたがう。
 日常の活動の時間も、やはり体重の1/4乗に比例する。
 息をする時間間隔、心臓が打つ感覚、腸が一回じわっとと先導する時間、血が体内を一巡する時間、体外から入った異物をふたたび体外へと除去するのに要する時間、タンパク質が合成されて壊されるまでの時間、などなど。

 私たちは、ふつう、時計を使って時間を測る。
 時は万物を平等に、非情に駆り立てていくと、私たちは考えている。
 ところが、どうもそうではないらしい。
 ゾウにはゾウの時間が、イヌにはイヌの時間が、ネ4ズミにはネズミの時間と、それぞれの体のサイズに応じて、違う時間の単位があるということを、生物学は教えてくれる。
 これを「生理的時間」と呼ぶ。

 寿命を心臓の鼓動時間で割ってみよう。
 すると、哺乳類ではどの動物も、一生の間に心臓は「20億回」打つという計算になる。
 寿命を呼吸する時間で割れば、一生の間に「約5億回」、息をスーハーと繰り返すと計算できる。
 これは哺乳類なら、体のサイズによらず、ほぼ同じ値となる。
 
 物理的時間で測れば、ゾウはネズミより、ずっと長生きである。
 ネズミは数年であるが、ゾウは100年近い寿命をもつ。
 しかし、心臓の拍動を時計として考えるならば、ゾウもネズミもまったく同じ長さを生きて死ぬことになる。
 小さい動物では、体内で起こるよろずの現象のテンポが速いのだから、物理的寿命が短いといったって、一生を生き切った感覚は、存外、ゾウもネズミも同じではないのだろうか。

 時間とは、最も基本的な概念である。
 人は自分の時計は何にでもあてはまると、何気なく信じ込んで暮らしている。
 そういう常識を覆してくれるのが「サイズの生物学」である。
 動物のサイズが、その動物の生き方に、以下に大きな影響を与えているか見ていこう。
 人間の考え方や行動も、ヒトという生物のサイズを抜きにしては理解できないものである。
 「おのれのサイズを知る」ということは、人間にとっても基本的なものである。
 「サイズ」という視点を通して、生物を、そして人間を理解しようとというのが、本書のねらいである。





 【習文:目次】 



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