2010年5月27日木曜日

★ 進化するグーグル:まえがき & あとがき:林信行

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● 2009/01



 まえがき
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 小さなちがいが大きな流れの変化を生み出すことがある。
 
 グーグル以前にも、世の中みはいくらでもインターネット検索のサービスはあった。
 「キーワードを入力してボタンをクリックすると、結果一覧の表示」
 こう書くとグーグルも、それ以前の検索サービスもあまりかわらない。
 しかし、そうした機能説明では伝わらない、ちょっとした違いが大きな変化を生み出した。
 クリック後、瞬時に結果が表示される快適さや「気になる答えが必ず上位に表示される」という賢さが加わったことで、グーグル検索は
 「インターネットの探し物はほぼ確実に見つかるという実感」
を、世界中の人々に植えつけた。

 このグーグル登場後すぐに、Webではもう一つの変化が起きる。
 それまで技術を持った人と資金力のある企業しかいなかったインターネットに、まったく機械音痴という人でも簡単に世界へ情報発信できるそーしゃるメデイア(ブログ、SNSなどを含む参加型メデイア)が広がり始める。
 これらのソーシャルメデイアは、グーグルが生み出した変化に乗り、発信した情報が、それを求めている人に確実に届くように---たとえば記事ごとに独立したページを設けるなどして---検索されやすくなるように努めた。

 小さな変化が、インターネット全体を取り込んだ大きな潮流に変化し始めた。
 こうして、世界中の知恵と情報が結びつくようになると、インターンネットはさらに多くの人々に広まり、より広い目的で使われるようになる。
 このような、我々の日常まで変えうる変革をIT系出版社オライリー・メデイア社のテイム・オライリー氏は
 「Web 2.0
と呼んだ。

 もっとも、この「Web 2.0」の革命は、これまではオフィスや書斎に置かれたパソコンの前まで行ってはじめて恩恵を受けいれられるものだった。
 それがいまや、アップル社の「iPhone」や、それにつづくグーグル社の携帯電話規格「Android(アンドロイド)」によって、日々の暮らしの中のパソコンに触れていない時間にまで進出をはじめようとしている。
 グーグルは、こうした新たな時代の大きなうねりを生み出しながら、1998年のたった2人での創業から、わずか10年間で、世界のトップ科学者が集う社員数2万人以上、2007年の純利益42億ドル(約4,200億円)、時価総額1,870億ドル(約18兆7千億円)の企業に成長した。

 本書では、今の社会を語る上で無視できないまでに成長したこのグループの驚くべき影響力の大きさと、今日に至る10年の歴史、そして同社がどのように発想して、こうした世界を作ってきたかを紹介していきたい。



 あとがき
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 本を買うときに、まず「あとがき」を読んで本を選ぶ人がいる。
 じつは私のその一人。
 本書では、高度情報化社会において、ますます大きくなるグーグルの影響力と、そこに至るまでの簡単な歴史、そして未来の展望を駆け足で紹介したが、その目的は、単に
 「グーグルってすごいんだ」
と驚いてもらうことではない。

 私の願いは、本書から、これから先の日本の企業や社会、そして人々の生活を想像し、創造する何かのヒントを得てもらえれば、というところにこそある。
 「打倒グーグル」と息巻いて新製品を開発する会社は多い。
 「グーグルの支配から抜け出せ」と煽り立てるメデイアもある。
 だが本当にグーグルを超えることをしたければ、ただ製品やビジネスモデルだけを考えるのではなく、懇意地、我々を取り囲む社会、そして世界全体にもう一度、目を向けて最新のテクノロジーがこの社会・世界を良くするために何ができるかを真剣に考えなければならない。

 数年前から多くの企業が流行り言葉のようにして「CSR、CSR」と唱え、とってつけたように環境への取り組みを紹介している。
 しかし、本質的なCSR(企業の社会的責任)とは、特別な"行為"をk考えることではなく、その結果生まれる社会への責任を実感したときに、自然に生まれてくる振る舞いだと思う。
 日本では、会社に閉じこもりマジメに机にしがみついていることこそが、「仕事の美徳」と考える人が多いが、世界を根底から変えるアイデイアや商品が、グーグルの遊び心溢れた職場から生まれてくることにも何か考えさせられるものがある。 
 日本は今、本当に大事なものは何か、をもう一度見直す必要がある。
 グーグルは、それに対する答えを自慢の検索サービスでは教えてくれない。
 しかしその存在と行為を通じて、世界中にヒントを発信し続けている。

 アップルもグーグルと並んで、未来の社会構造までデザインしようと目論んでいる数少ない企業の1つだ。
 
 2008年12月









 【習文:目次】 



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