2010年12月15日水曜日

: 突然変異は偶然ではない

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● 2007/08



 人間はみな、たった一つの細胞から生まれる。
 その細胞は「接合子」とよばれる。
 父親からきた精子と母親からきた卵子の細胞が合体した、命のはじまりの細胞だ。
 何万年ものあいだに経験してきた進化の圧力、反応、適応、選択のすべてがこの細胞に詰まっている。
 人体を隅々まで形作るタンパク質を製造するための遺伝子の指示がすべて、この細胞に入っている。
 その指示はおよそ「30憶」の「DNA塩基対」の上に記憶されているが、遺伝子の総数は3万個もないといわれている。
 それらが「23対」の染色体、つまり「46本」の染色体に入っている。
 23対の染色体の片方は母親から、もう片方は父親からきたものだ。
 23番目の「性染色体」以外は、指示する対象の同じものどうしが対になっている。
 ただし、体のどの部分にどんなことをさせるかの指示はが「どう出るか」はその組み合わせによって決まる。
 たとえば、あなたの指に毛が生えるか生えないかの指示について考えてみよう。
 父親からきた染色体には「毛を生やさない」指示が、母親からきた染色体には「毛を生やす」指示があったとする。
 この場合、あなたの指には毛が生える。
 指に毛を生やす形質は「優性(1)」で、毛を生やさない形質は「劣性(0)」なので、毛を生やす遺伝子が一つあるだけでその形質は出現する(1+0=1)。
 指に毛が生えないためには、毛を生やさない遺伝子が二つ揃わなければならない(0+0=0)。

 あなたの体の細胞は同じDNA---あらゆるタンパク質、あらゆる種類の細胞を作るための指示がすべて入った染色体セット---を含んでいる。
 だが、例外が一つある。
 それは子孫を作り出すための「生殖細胞」だ。
 生殖細胞である精子と卵子は各々23本の染色体しか含んでいない。
 精子と卵子が合体して、接合子になってはじめて、46本の完全な染色体セットをもつ細胞になる。
 この瞬間から、その後に細胞分裂してできる細胞のすべてが共通の設計図を持つことになる。
 皮膚細胞から血液細胞まで、あなたの体にあるすべての細胞の作り方を知っているのである。

 人間の細胞のほとんどすべてには「ミトコンドリア」という、細胞を働かせるためのエネルギーを作りだす発電所のような場所がある。
 現在では科学者の大半が、ミトコンドリアはもともとは独立した細菌だったのが、長い間寄生しているうちに宿主の役に立つように進化したものだと信じている。
 この「もと細胞」は、人間のほとんどすべての細胞の中で生きていると同時に、それ自身で遺伝させることのできるDNAをもっている。
 このDNAを「ミトコンドリアDNA(mtDNA)」という。
 人間がともに暮らすことにした有機体は、この「もと細菌」だけではない。
 人間のDNAのおよそ1/3は、「もとウイルス」だと科学者たちは信じている。
 つまり、人間の進化とはウイルスや細菌に適応するように形作られたというより、ウイルスや細菌を組み込むように形作られてきた、というのだ。

 科学界ではつい最近まで、遺伝子変異は「ごくたまに、でたらめに起こる間違い」、つまりエラーによる偶然の産物だとだれもが信じていた。
 ここで、変異がどう起こるかの説明をしておこう。
 細胞が作られるとき、DNAは「母細胞」から「娘細胞」にコピーされる。
 この作業でふつうは同一の複製ができあがるが、なにせDNA量は膨大なため、ときにはどこかでエラーが起こる。
 このエラーを防止するために、複製過程では「校正」作業が加えられる。
 この校正でエラーを見逃す確率の低さは驚異的で、10憶回のコピーで1カ所ほどのエラーしか残さない。
 しかし、エラーが見逃されたDNA配列の新しい組み合わせは、たとえそのエラーがどれほどわずかであっても、変異となる。

 変異は放射線や強力な科学物質(タバコの煙など)にさらされたときにも起こる。
 この場合でもDNA配列が変わってしまう。
 太陽光線でも変異を引き起こす。
 太陽の黒点活動が最大になるときは混乱を引き起こす。
 インフルエンザの大流行はインフルエンザウイルスのDNAに「抗原連続変異」が起こることが原因だと考えられている。
 簡単にいうと突然変異だ。
 重大な抗原連続変異が生じたとき、人間の体はその新種の外来者になじみがなく、抗体も用意していない。
 では、その抗原連続変異を引き起こしているものは何か?
 変異は放射線の照射で起こる。
 そして、太陽から出ている放射線は11年ごとに太々になっている。
 だとすれば------。

 生き物の生殖過程で変異が起こると、これは「進化」につながる可能性がある。
 たいていの突然変異はその生き物に害をもたらすか、あるいは何の影響もおよばさない。
 ところがごくたまに、何らかの突然変異がその生き物の種にとって有利な点がが現れ、生存と種保存の確率が高まることがある。
 自然淘汰の流れから、有利な変異をもっている個体が世代ごとに子孫を増やし、やがてはその種全体に広まる。
 その種は「進化」したことになる。
 有利な変異が起きるかどうかはあくまで偶然による。

 ここまでの話だと、あらゆる生き物のゲノムは自分たちの生存と種保存がおびやかされるような環境変化に遭遇しても、遺伝子レベルでは意図的に対処できないということになる。
 すべては運のおかげになってしまう。
 「自然淘汰は環境の影響を受けるが、変異が環境の影響を受けることは絶対にない。変異は偶然の産物で、自然淘汰はその偶然が有利に働いたときのみに、それを助ける」
というのが科学者たちの考えだった。
 ところがこの考えの問題点は、進化が進化圧力と切り離されて考えられていることだ。
 これでは、環境変化に対応するために進化する、子孫を増やすために進化する、という必要性が進化に直結しないことになる。
 進化の圧力を受けない唯一の部分は、進化そのものだということになる。

 この偶然変異だけが適応につながるという理論は、最近完成したヒトゲノム解析プロジェクトによっても綻びが出てきた。
 遺伝学者たちは当初、遺伝子はそれぞれ一個づつの単一の目的をもっていると信じていた。
 眼の色を決める遺伝子はこれ、耳たぶが垂れる遺伝子はこれ、というように。
 この理論でいくと、遺伝子は少なくとも10万個存在しなければならなくなる。
 しかし、ゲノム地図ができてみると、遺伝子の総数は25,000個しかなかった。
 遺伝子はそれぞれ独立した仕事をしているわけではないということが突然わかったのだ。
 ひとつの遺伝子がひとつの仕事しかしていなかったら、人間の生命維持に必要なタンパク質のすべてはとうてい作り出せないのだ。

 「人間のゲノムは可変である」
という考えかたが入ってきたために、「遺伝子とは何か」という根本的定義がいきなり曖昧になった。
 ある生き物の特定の機能を司どっている特定の遺伝子を人為的に取り除くという遺伝子工学的手法を「ノックアウト」という。
 ところが、ノックアウトした遺伝子の機能が従前どおり働いていて、ノックアウトした影響がどこにも見られないというケースを、科学者たちは数多く目にしてきた。
 それは、他の遺伝子が必要に応じてノックアウトされた遺伝子の仕事を肩代わりしていたからだ。
 そこから科学者たちは遺伝子を、個々の指示が集められたものではなく、何か変化が起これば、それに組織的に対応する複雑な情報ネットワークとしてとらえるようになった。

 とすると、ある生き物から特定の遺伝子を取り除いても何の影響もないのだとしたら、そんなわずかな遺伝子配列の変更ぐらいで、新種への進化が起こるだろうか?。
 起こるはずがない。








 【習文:目次】 



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